みくに園

昔から受け継がれているモノやコト。

変わらずに守り続けることも大切ですが、あえて今のテイストを取り入れ、
新たな可能性に挑戦することは楽しくもあり、そして苦しくもあります。

独りよがりではないだろうか、小手先に過ぎないのではないだろうか。
葛藤が生じ、不安に苛まれます。

でもポツンと光る、最初は本当に小さく光る何かしらの兆しを見つけたとき、
迷いが一気に振り払われ、そこにたどり着く一つの道が見えることがあります。

それが成功への道ではないかもしれないけれど、それを信じて突き進むことで
見えてくるものもあるのではないでしょうか?

今回は、昔から受け継がれる“盆栽”に、新たな境地を切り拓こうと活動している
「みくに園」の下村禎勝氏にお話を伺いました。

みくに園

みくに園江戸時代後期のかぐら建ての町家を改装した店舗。心地よい空間が作られている。

「盆栽ってどんなイメージがありますか?」
唐突に、下村氏に笑顔で聞かれ、思わず口をつぐんでしまう。
「年寄がするもの、高そう、なんか難しそう…
こういうイメージが定着しているみたいです」
心の中が読まれたようで思わず苦笑い。このイメージのせいか、新たにやってみようという方は年々減っているそうだ。

「その垣根というか、一方的な先入観を取り除いて、もっと盆栽を身近なものにしたいと思っています」

下村氏の“盆栽を身近にする大作戦”はかなり面白い。下村氏は言う。「もともと盆栽とは離れた世界に生きていました。だからでしょうか、『こうあるべきだ』という発想に縛られることなく、素直に盆栽を見ることができるんです」

下村氏は脱サラをして9年前に盆栽を始めた。盆栽を営んでいた父が交通事故に遭い、たまたま失業中だった下村氏が水やりをしたことがきっかけだという。

「父が盆栽を大切にしている姿を見てきましたが、私は全く無関心。
継ぐ気は全くなく、水やりすらやったことがありませんでした」

しかし、仕方なく手伝い始めた盆栽に次第に惚れていったという。
「本当に人の成長と似ているんです。どういう姿にしたいか、それを思い浮かべながら日々手入れをしますが、相手(盆栽)もこちらの言うことを100%聞いてくれません。思い通りにならないこともありますし、時には想像以上になったりもします。一つとして同じ木はありませんので、その育て方はその木次第。知れば知るほど難しいですね」

ただ、盆栽にのめり込むほど、盆栽を取り巻く環境に危機感を感じた。

盆栽は基本的には待ちの商売。いい盆栽を仕入れ、育て、それを玄人が吟味し、購入する。このやり方をやっている限り、
新しいお客様を獲得できないし、育てることができない。
それに盆栽は玄人の世界観が強く、初心者をなかなか寄せ付けない。寄せ付けないというよりも『よく分からないので寄り付かない』というのが本当のところかもしれない。

初心者が盆栽を始めるには大きな垣根がある。だからこそ、盆栽に縁遠い方を引き寄せる仕掛けが大切だという。

「富士山が高いのは裾野が広いからです。盆栽の将来を考えた時、玄人だけの市場では先行きが乏しくなります。もちろん、
玄人の世界は『すごい』というあこがれを示す存在として大切ですが、今のうちに盆栽を始める入り口を増やし、初心者と、
そして初心者と玄人を結ぶ中間層を育てることが私の使命だと思っています」

「そのためにはもっと盆栽の可能性を追求して、新しい盆栽の姿を作り上げていく。そしてどんどん盆栽の情報を発信していく。
少しでも多くの方に盆栽を知ってもらうことが大切だと思います」

みくに園季節によって旬の盆栽を取り入れたりしているので、 何度きても新しい発見がある。

みくに園子供から大人まで気軽に楽しめる盆栽ワークショップも月に1回開催している。見るだけでなく、実際に盆栽を作ることも体験できる。

ここからが下村氏の真骨頂。「盆栽を身近なもの」にするために様々なアイデアを絞り出し、実践していく。

たとえば「ちょこぼん」。名前の通り、かわいらしい鉢に、かわいらしい盆栽が“ちょこっと”育てられている。それまでの盆栽の世界とは明らかに異質であるが、思わず「かわいい」と手にしてしまう。
「初めて盆栽に触れる方への架け橋として取り組みました。女性や恋人関係の方に人気があります」

他にも地元越前焼の職人と組んだ「Re:BON BONSAI」。 鉢として使う器に地元の土を用いて、独特の風合いを醸し出した。

情報発信にも力を入れている。ブランド力を高めることを基本に置き、金沢在住のデザイナーと組んで「みくに園」のロゴや方向性をまとめ上げ、独特の趣が漂うホームページも展開している(注1)。

また、過去には百貨店の催事場や催しものにも積極的に参加して情報発信を続けた。

しかし、いくら新しい取り組みを行っても、様々なやり方で情報発信を行っても、下村氏は納得がいかなかったという。盆栽に惚れ込み、その良さを知っているだけに、充分に伝えきれない、伝わらないことがもどかしかったそうだ。

「今まで盆栽に触れたことがない方が、ビビッとくるような演出、盆栽の良さを十分に引き出す空気感」それらを発信できる方法がないか模索し続けた。


店先に並ぶ「ちょこぼん」達。

みくに園では、盆栽を購入した後のつながりも大切にしている。盆栽の状態を写メなどで送信すれば、下村氏の適切なアドバイスもいただける。

そんな中、2014年に金沢で開催された古民家を活用したギャラリーに参加したことで大きなヒントを得る。古民家の風合いとスポットライト、そこにある盆栽が絶妙なハーモニーを引き出し、今までにない雰囲気を演出でき、そして今までにない多くの来場者を獲得できた。

「今までのように盆栽だけを見るのではなく、盆栽が置かれている空間も大切にすることで、新たな盆栽の可能性を見出すことができました」

下村氏は気付いた。「盆栽がいくら良くてもそれだけでは初心者の方はなかなか盆栽の世界には足を踏み入れません。しかし、盆栽を取り巻くあらゆる空間を良くすることで、それまで盆栽に接したことがない方がその空間に引き込まれ、盆栽に触れるきっかけが生まれると思います」

下村氏は強く思うようになる。
『新しいお客様を獲得するためには、雰囲気を体で感じることができる場所(店)が必要だ』

まるでそれを導くかのごとく、江戸、明治から受け継がれた街並みを復活させるプロジェクトが地元三国町で展開することが決まった。このプロジェクトでは古い建物や古民家を改装して新たな店を出店しようとする方が募られた(注2)。下村氏は手を挙げた。

「両親には契約を済ませた後で報告しました(笑)。不退転の決意です」

下村氏が借りた古民家は、元は麹や。空き家になって久しく、傷んでいるところは数知れず。2015年11月、一人で修繕を開始した。

「大工仕事は全くしたことがありませんでした。盆栽の仕事をやりながら、時間を作っては修繕作業を行いました。正直、大みそかになっても先が見えない状況には涙が出そうになりました(笑)」

 

『1日にどれくらい水をやればいいですか?』という質問をよく受けますが、それは人間の都合です。人の状態が毎日同じでないように、木の状態も日々異なります。木の様子を見て、乾いていれば水をやることです」盆栽に関する様々アドバイスを気さくにいただける。

紆余曲折を経て、2016年3月、お店を開けるだけの修繕を終える。借り受けた頃の空き家には生活感が溢れていて、今のお店の姿は全く想像がつかなかったという。
「昔住んでいた方が『こんなに良くしてくれて』と言われた時にはさすがに感極まりました」

『雰囲気を、空気感を肌で感じることができる空間を演出し、盆栽と人をつなげる』ことをコンセプトにした下村氏のお店『みくに園三國湊店』には様々な工夫が施されている。

道沿いの店の入り口は大きなガラス越しに店内が見えるようになっており、ちょこぼんなど目を引く盆栽がずらりと並べられている。「入ってみよっか」と気軽に店内に入り、盆栽に触れられるように。

店内に一歩踏み入れると、盆栽と暖色の照明がゆったりとした心地よい空間を演出している。時間を忘れて盆栽を見るうちに「盆栽って面白い」と思わず感じる。

そこに並ぶ盆栽を一通り見終えると、今度は畳敷きの部屋の奥の空間に目がいく。そこは落ち着いた中庭になっており、和室の障子越しに(障子は貼られず、枠組みだけが残っている)、本格派の盆栽がバランスよく並べられているのが見える。「すごい」盆栽の奥深さに驚愕する。

「店内(盆栽)に入りやすい雰囲気をつくり、ちょこぼんなど親しみやすい盆栽に触れてもらいます。そこでもいろいろな盆栽があるので、それらを見比べることで盆栽のテイストを感じてもらえればと思っています。まずはちょこぼんを購入し、そこから盆栽を知ってもらい、経験を積むことで本格的な盆栽に触れ、その面白さに惚れていただければ嬉しいですね」

「ゼロからのスタートだったので、盆栽の可能性を信じて、いろいろなことがやれているのだと思います。素人上がりには素人の好みや考え方がよく分かりますから。ただ、玄人の世界で受け継がれてきた盆栽をこのような切り口で展開するのは邪道じゃないかという気持ちもありました。違うことをやるのが恥ずかしいというか…。同業者の目もやっぱり気になりました。でもここまでやり切ったので、今ではまわりも認めてくれています」

今後の抱負を聞いてみた。
「今年(2016年)の冬には店の奥にある蔵の修繕に着手したいと思います」もっともっとお店の雰囲気を磨き上げるとともに
「いつでも気楽に立ち寄れる雰囲気も大切にしたいと思います」

みくに園には、盆栽を始めたい人、もっと知りたい人、極めたい人、そしてたまたま通りかかった人まで、
誰もが足を踏み込める居心地の良い空間がある。
そして、店主は今日も盆栽の可能性を信じ、新しいことに挑戦しつつ、伝統的な盆栽を守っている。

下村禎勝氏

下村氏が手掛けるホームページ「みくに園三国湊店」はこちらをご覧下さい。
http://minato.bonsai-mikunien.com/

また、盆栽のオンラインショップを展開中。
http://bonsai-mikunien.com/

三国町で進められている“三國湊町家PROJECT(みくにみなとまちやぷろじぇくと)”は、
福井県坂井市三国町にある町家などの空き家を保存・改修し、活用する町づくりプロジェクトです。
詳しくはこちらをご覧ください
http://mikunikaisyo.org/machiya/